クラウドファンディング(CF)により新たに収蔵された名作椅子「ボールチェア」の体験イベントが4月19日・26日の2日間、埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区常盤9)で開催された。
1982(昭和57)年に開館した同館は、モネやピカソなどの巨匠の作品を収蔵する一方、館内に自由に座れるデザイン・チェアを多数配置していることから「椅子の美術館」として親しまれている。今回の「ボールチェア」収蔵は、同館として初となる「ふるさと納税型クラウドファンディング」を活用した。デザイン大国フィンランドを代表するデザイナー、エーロ・アールニオが1966(昭和41)年に発表した名作椅子の購入資金を募ったところ、多くの美術館ファンなどから支援が寄せられた。
ボールチェアは、球体を大胆にくり抜いたような近未来的なフォルムが特徴。1960年代、アメリカとソ連が宇宙開発を競い、人々が宇宙旅行やSFに魅了された時代の空気感を象徴するデザインとして世界的に知られている。今回収蔵されたのは、1996(平成8)年から2016(平成28)年までデザイナーの認可を受けて製造を行っていたアデルタ社製の椅子。外側のシェルが白、座面が黒という配色で、アールニオ本人が最も好んだといわれる組み合わせだという。椅子は4月7日から一般公開している。
美術館の収蔵品は「鑑賞」が主目的で、手を触れることは制限されるのが一般的だが、今回は「CFでの支援に感謝し、実際に座ることでその魅力を体感してほしい」との思いから特別な体験イベントを企画した。イベント当日、会場では家族連れなどが列を作った。実際に椅子の中に収まった来場者の一人は「自分だけの一人部屋にいるような不思議な感覚。ここだけ別空間のようで、周りの音は聞こえるが、とても落ち着く」と話し、球体の中に包み込まれる独特の没入感に驚きの表情を見せた。別の体験者からは「見た目以上に中が広く、座り心地もすごくいい」などの声が上がた。
同館主任学芸員の吉岡知子さんは「ボールチェアに実際に座って初めて体験できる感覚がある。今回のイベントを通じて、その魅力を存分に体感していただけたのでは」と振り返る。初のCF活用については、「多くの方々の協力によってこの名作を迎え入れることができた。当館の新たなコレクションとして、これから大切にしていきたい」と感謝の気持ちも込めて話す。
ボールチェアは館内の展示スペースで継続して公開する。