「釜炒(い)り茶体験」イベントが6月4日、さいたま市緑区上野田の100年以上続く茶畑で開催された。主催は農村体験事業を展開する「丸園」。
2022年に始まり、今年で2回目。丸園を主宰する丸志伸(まるしのぶ)さんは以前、人材開発の会社を経営していたが、家が15代続く農家であったことから、2020年、妻の薫さんと共に農村体験の事業を始めた。釜炒り茶体験をはじめ、当地で農村文化として伝わってきた盆栽を「かじゅある盆栽」と名付け、広めていく活動などを行っている。
丸さんによると、丸園の茶畑は少なくとも100年以上前に植栽されたもので、品種改良されていない日本古来の在来種だという。これまで自家用として農薬や肥料を使わずに栽培してきた。さいたま市内では、江戸時代から畑を区切る垣根や自家消費用としてお茶の栽培が始まり、明治時代には換金作物として盛んに栽培されたという。史料では市内産の茶葉がヨーロッパへ輸出されていた記録が残っている。その後、輸出の減少とともに茶の栽培面積は減っていき、現在、市内ではほとんど茶畑を見かけないという。
当日は参加者10人が、茶摘みに始まり、茶葉の釜炒り、揉(も)み、乾燥という一連の作業を体験した。釜炒り茶は中国茶で一般的な製法で、日本では佐賀など、ごく一部の地域で作られている。生産量は日本茶全体の0.3%と極めて少ない。煎茶や玉露といった一般的な日本茶と違い、「蒸し」の工程がなく、鉄の釜で加熱して風味を出しながら乾燥させていく。完成した釜炒り茶は「釜香(かまか)」と呼ばれる独特な香りがあり、お茶にした時の水色(すいしょく)は金色。茶葉本来の風味やうまみが引き出されるという。
丸さんは「地域の豊かな農村文化を伝えていきたいと考え、自宅の農地にあった茶畑に着目した。この地域ではもともと釜炒り茶は作られていなかったが、収穫から数時間程度でお茶にできることから体験コースに向いていると考え、静岡県内の茶園で技術を習得した。今後もさまざまな農村体験イベントを開いていきたい」と話す。
神奈川県川崎市からイベントに参加した田中けい子さんは「幼い頃に母が釜炒り茶を作ってくれた思い出があり、そのおいしさが忘れられずに自分で作ってみようと参加した」と話す。さいたま市岩槻区から参加した岡﨑妃都美さん・雅妃さん親子は「自由研究のテーマとしてお茶作りに興味を持って参加した。いろいろな体験ができて面白かったし、自分が作ったお茶を飲めてうれしかった」と目を輝かせた。