浦和区在住の野辺明子さんは医療的ケアを必要とする子どもと家族を描いた著書「命あるがままに」(中央法規出版)を12月14日、出版した。
6人の医療的ケア児(日常生活を送るうえで医療と看護が必要な子ども)と家族の軌跡をたどり、地域で暮らす難しさと葛藤、そして喜びを伝える同作。著者の野辺さんは1975(昭和50)年に生まれた長女が右手指欠損という障がいをもって生まれてきたことから「先天性四肢障害児父母の会」を設立。20年に渡り同団体の代表を務め、障がい児の問題に取り組んでいる。1979(昭和54)年から書き始め、絵本作家の田畑精一さんとの協同制作で1985(昭和60)年に刊行された『さっちゃんのまほうのて』はロングセラーとなり、累計で70万部発行されている。
医療的ケア児をテーマにした本を書いてほしいと出版社から依頼があり、野辺さんの中でも大きな問題意識があったことから、2018(平成30)年の1月から取材を開始。6人の医療的ケア児の家族へのヒアリングを行い、執筆に至った。どの家庭でも介護と看護のサービスをフルに活用しないと生活することができない厳しさがあり、取材の中でショックを受けることも多かったという。
「日本の新生児医療の技術が進み、日本は世界で一番赤ちゃんの死なない国になった。しかし、命を救ったはいいが、その子が暮らしていける環境が整っていない。訪問看護・介護などの福祉サービスや医療サービスは充実してきているが、学校に通うとなるとスクールバスにも乗ることができないのが現状」と野辺さんは話す。
同書では家族の日常生活を描き、写真をたくさん使うことで彼らの生活をよりきちんと理解してもらえるようになっていると野辺さんは話す。さらに小児在宅医療の専門家である前田浩利医師による解説もされている。
「この本は我が子の厳しい現実から逃げなかった親たちの物語、子どもを愛し続けた親たちの物語。自分でしゃべること動くこともできない子どももいるが、家族にとってはかけがえのない愛すべき命である。困難も多いと思うが、それによって幸せも得ているということを伝えたい。本当に大変な生活だと思うが、そこを踏ん張ることで何かが開けていく。そのためには世間の応援する空気が必要になる。それがないと親は疲れ切ってしまう。こういう現状をひとりでも多くの人に知ってもらいたい」と野辺さんは話す。
価格は2,640円。