「もの派」と呼ばれる美術動向を、作品と記録写真や資料との関係から検証する企画展「DECODE/出来事と記録-ポスト工業化社会の美術」が、埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区常盤9、TEL 048-824-0110)で開催されている。
「もの派」とは1960年代末から70年代にかけて興った美術動向。素材にできるだけ手を加えず、物質と空間の関係を重視することが特徴で、近年国際的に評価が高まっている。
同展では大宮市(現・さいたま市)出身で今年5月に逝去した「もの派」の中心作家・関根伸夫さんのドローイングやメモなどの資料、同館が多摩美術大学アートアーカイヴセンターと共同で進めている「もの派アーカイヴ」関連の展示、1960年代末から現代までの幅広い世代の作家による建築・映像など多様なジャンルの作品を、一つの展覧会にまとめている。同館学芸員の梅津元さんは、「『もの派』にはくくれないジャンルの作家や時代も取り上げることで、『もの派』を相対的に浮かび上がらせ、捉え直している」と狙いを話す。
展示は、約20点の美術作品、14点の映像作品のほか、多数の資料で構成される。関根さんが1968(昭和43)年に神戸須磨離宮公園現代彫刻展で発表した「位相-大地」は、大地に円筒形の穴を掘り、堀り出された土を穴とほぼ同じ円筒形に固めた作品で、「もの派」の出発点とされる。展覧会終了後に穴は埋め戻され作品は姿を消したため、以降は記録写真によって語られてきた。同展では記録写真をつないだスライドショーを壁面に直接投影しており、座って鑑賞することができる。梅津さんは「『もの派』の作品は現存しないものも多いことを逆手にとり、資料から記録者の視点を感じられる展示にしている」と説明する。
窓際に展示された関根さんの作品「空相-石を切る」は、石にステンレスの板を組み合わせており、上面に外の風景が反射する。梅津さんは「重いはずの石が、水の被膜のように見える。石とは思えないほどの軽やかさで、物質感が反転している」と解説する。
同展では、美術以外の分野の表現者にも参加を依頼。写真家で、展示空間全体を印画紙で埋め尽くす作風で知られる小松浩子さんの作品「内方浸透現象」は、展示室内の床に敷かれた写真の上を歩くことができる。
10月27日には、映像作家の中嶋興さん、彫刻家で多摩美術大学教授の小泉俊己さんを招き、シンポジウム「出来事と記録-写真の使命-」を行う。
開館時間は10時~17時30分(入場は17時まで)。月曜休館(9月16日・23日、10月14日、11月4日は開館)。観覧料は、一般=1,100円、大高生=880円、中学生以下と障害者手帳などの提示者(付き添い1人含む)は無料。11月4日まで。