埼玉県さいたま市浦和区およびその近くに住む人へのインタビュー「となりの浦和さん」。おとなりに住んでいても、お互い何をしているかは知らないことも多い近頃ですが、この特集ではインタビューに応じていただいた「となりの浦和さん」をご紹介していきます。
1人目は、桜区塚本の木曽農園(さいたま市桜区塚本)を営む「木曽大原さん」にお話しを伺いました。
桜区の農家 木曽大原さん
今年1月で開園から6年を迎える同農園を営む草加市出身の木曽大原(たいげん)さん。木曽さんは埼玉大学を2019(平成31)年に卒業後、小川町の霜里農場で1年間、住み込みで農業を学んだ。その後、越谷市の遊佐農場で2年間研修を積みながら、2020年塚本に田畑を借りて木曽農園を開園し、2022年1月からは専業農家となった。
同農園は、地域のレストランへの卸売やイベントなどを通じて野菜を販売するほか、「さいたま有機都市計画」の一員として「オーガニックシティーフェス」を盛り上げるなど、地域活動にも力を入れる。現在は卵用の鶏9羽を飼育し、畑と家畜が共存する農の風景づくりにも取り組んでいる。

9羽の卵用鶏

「だいぶ人に慣れてきた」と木曽さん
木曽さんは「農業を始めた当初は、野菜を作って売ることだけを考えていた」と振り返る。一方、地域で活動を続ける中で、農地の減少や担い手不足を身近に感じるようになったという。「農地は、耕作する人がいなければ守れない。貸したい地主も多く、貸し借りのマッチングはさいたま市でも行われているが、中には資材置き場などになるケースも少なくない。一方で、売り買いのマッチングがないことが課題。この地域で5年間活動してきた中で、農業を取り巻く課題は地域全体の問題だと感じるようになった」と話す。
こうした思いから、地域の仲間と立ち上げた団体「塚本ビレッジ」で5か年計画を進めている。計画では、「農」「教育」「記録」「エネルギー」を柱に、塚本地区の将来像を主体的に描いていく。
今年は地域の農家を紹介する冊子「塚本農家ブック」を制作する予定。高齢の農業者がどのように塚本の農業を担ってきたかを次世代に伝えることや、新旧農業者の相互交流、非農家の住民に農業への興味を持ってもらうことが狙い。この冊子とは別に、木曽さん個人として地域に根差して暮らし、働いてきた高齢の住民に聞き取りを行い、1955(昭和30)年に浦和市に編入する以前の純農村時代の記憶や、語られなくなった地域の出来事を記録したいと考えている。「昔の風景や暮らしを知っている人の話は、今しか聞けない。残しておかなければ、地域の文脈が途切れてしまう」と木曽さんは危機感をにじませる。
2027年には「ヤギ飼いプロジェクト」を計画し、家畜を取り入れた循環型農業にも挑戦する。2028年には大久保郷土資料室(仮称)の開設、2029年にはエネルギーの地産地消に向けた取り組みも構想している。木曽さんは「エネルギーの取り組みは自分のためだけではなく、地域の防災の備えにもなる。教育関係とも絡めて取り組めたらおもしろいのでは」と話す。

「コドモ農業大学」の農業アドバイザーとして野菜作りを担当する
木曽さんはこれらの活動と並行して、昨年から野菜や米作り、生き物との触れ合いを通して、自然の力を感じながら「食」と「命」を学ぶ体験型学び場「コドモ農業大学」に、農業アドバイザー(野菜作り担当)として携わっている。主催は、不登校の子どもの居場所づくりなどに取り組む一般社団法人「コドモギルド」(さいたま市)。大学時代の友人でもある代表理事の青木和也さんの呼びかけを機に、連携してプログラムを進めている。2025年度の活動(2025年4月~2026年2月)は、野菜の栽培・収穫・乾燥や米作り、米粉、ソース、チーズ作りなど、全ての工程をゼロから体験する「ピザプロジェクト」。6、7人の子どもが参加し、材料の買い出しや下準備を行い、ピザ窯も自分たちで作った。今後、保存した材料でピザを作り、1年のプログラムを締めくくる。次年度はスパイスから作る「カレープロジェクト」を予定している。木曽さんは「農業には、生きていくための技術が詰まっている。機械の手入れや動物との関わり方など、やりながらでないと身に付かない学びがある」と話す。

子どもたちが材料の赤玉土を購入し、作ったピザ窯

自分たちで作ったピザ窯にタイルを貼る

全ての工程をゼロから体験する「ピザプロジェクト」
2030年を目標に構想する「塚本農の学校(仮称)」は、これまでの実践を発展させた取り組みだという。木曽さんは「教育活動を今年度から始めて、今後どんどん発展していく可能性が見えてきた。農業、建築、料理、芸術など人が生きることに直結する学びを、地域の人に先生となってもらい、顔の見える人から技術を学べる『開かれた学校』を作れたら」と意欲を見せる。
木曽農園ホームページ